すき、きらい、すき

すき、すき、すき

live to the point of tears.

2018.9.6

平成最後の夏が未だ余韻を残しているその日、松井珠理奈は再びステージに立った。

 

暗闇で佇む彼女は、照明が明るくなると同時にぱっと表情も明るくさせた。わあっ、という客席からの歓声に笑顔をみせ、拍手で迎え入れられると、次第にその目を潤ませていった。

兼任後初のチームK公演で自己紹介をした際に同じように拍手と歓声で迎え入れたことに対し、安心した顔で涙を流し笑った彼女のことを思い返した。

長期休養についての謝罪、そして世界選抜総選挙で第1位を獲得したことについての感謝。

この「1位ありがとうございます!」の言葉を、2ヶ月間、待っていた。

 

 

先月発売されたBUBKAを遅ればせながら購入しました。

「珠理奈は、正しさとは何かを考えながら生きてきた人である」と始まる記事は、彼女の性格と人となり、そして秘めていた思いについて記されていた。

 

端的にいうと、松井珠理奈さんの気持ち(この場所を救いたい)が、完全にAKB48に移っていた。

数年前、盟友松井玲奈の卒業をきっかけに兼任解除をした時の松井さんは、”SKE一本で、きちんと後輩に背中を見せたいし、このグループをもう一度盛り立てたい”と発言していた。

松井珠理奈といえば、底なしのSKE愛、と言えるほど彼女はなによりもSKEを愛してきたと思う。

SKEに重きを置いてオタクをしている身としては、姉妹グループで唯一右肩あがり、一度どん底に落ちたグループがこの1.2年で徐々に復活し、かつグループにとって大切な核を伝承し続けている姿を見ると、なるほどな、と納得する部分もある。実際、彼女はこう発言している。

「今のSKEは私がいなくても任せられるメンバーが増えた。なにも言わなくても伝わっている。だけど、(AKB48は)東京ドームに立ちたいと言うけれど、全メンバー、全スタッフが同じ考えを持っているように私には見えない。」と。

また、「SKEのイメージが強い私がAKBのことを語っても、説得力がないように思われる。でも、1位になったらAKBをなんとかしたいという気持ちをもっと言ってもいいですよね?」とも。

 

そして選挙前の彼女のモバイルメール

「たくさんの先輩を見てきて、それを今の後輩に伝えたいし、それが出来るのはもう自分しかいない。今度は私が48グループに恩返しする番」(何日分かのものを要約しています)

 

あの日、グループのトップに立った彼女が「今の48グループが一番最高です」と、全てを許し、抱きしめていた。今の48グループの在り方を認めると同時に、尻を叩いたのだな、と思う。10年在籍している彼女が、売り上げも、話題性も、熱も失った今のグループの何をもって「一番最高」と言っているのか、私にはまだ分からない。

ただ、彼女はプロレス脳を身につけた。プロレスは、倒れてからが本番だ。松井珠理奈さん自身も、心が折れかけたところでプロレスに出会い、立ち上がり方を学んだ。だから、48グループにも、発破をかけたのだな、と思う。

全時代からの架け橋であるピースとなる人物が10年かけて10回目の総選挙で地元で栄光を手に入れる。そして栄冠を手にした人物が、今の48を抱きとめる。味が濃すぎるくらいドラマティックだ。伏線と、ストーリーと、結末が全部その瞬間のためにあるかのようなタイミング。ただ、不運なことにその一連の流れがもつ意味を理解できる人が、本当に少なくなってしまっていた。

48グループの命運を背負わされた子だからこそ、もう歩みを止めてしまいたがっても仕方ないな、と覚悟していた。むしろ、今まで夢を見させてくれてありがとう、と。でも、彼女は戻ってきた。

震える手を隠すように握りしめて、涙がこぼれ落ちないよう目に力をいれ、でも、ただ、ホームと呼べる場所の歓声が彼女を包んだ。

彼女が「1位ありがとうございます」と言えてよかったな、と思う。

いちオタクとして喜ぶ姿が見たいからこその投票行為であったし、その結果を誇りに思ってほしい。

 

たくさん、48のことを考えてくれてありがとう。

彼女は今も、自分が憧れたように、誰かの憧れであろうとしている。

 

「私がデビューしたのは『大声ダイヤモンド』です。それはAKB48の楽曲です。だから、AKB48には憧れの存在であり続けてほしいんです」

 

おかえりなさい。

そしておめでとう。

アイドル松井珠理奈を、納得いくまで全うしてください。

眩しくて眩しくて、涙が出るくらい輝いて、そしてその翼で、どこまでも自由に飛び立つ日がきますように。

 

Live to the point of tears.

涙が出そうになるくらい生きろ。

(アルベール・カミュ)

 

 

BUBKA買ってください。 そして松井珠理奈さんのコラムと、天龍源一郎さんのページを読んでください。

 

BUBKA (ブブカ) 2018年10月号

BUBKA (ブブカ) 2018年10月号